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ロンドン生活の振り返り:精神の話

竹内絢香

手帳を開いて一番後ろに、2022年の目標が書いてありました。

①創作漫画の連載開始
②イギリスに住む
③創作に自信を持つ

幸運なことに、沢山の人に助けてもらって上の二つは達成することが出来ました。
一方で、最後のひとつ「創作に自信を持つ」。
これは目に見えない内的な変化であり、それゆえ私が最も厄介だと感じ、それでも得たいと数年来願い続けているものです。

今回の渡英では、どっぷり制作することで作品に自信をつけたいと願っていました。
ホラ、スポーツ選手とかいっぱい練習して、それを試合前に思い出すっていうし…ロンドンに行って、しこたま漫画を描けば、私もちょっとでも自分の作品に自信が持てるんじゃないかな、と…
で、半年の極端な修行の結果(これについては別の記事を見てね)、どうなったかというと「やっぱ全然自信ないけど、今は大丈夫な気がする」です。

そもそも作品、そして創作活動全般に対する自信が全くなくなってしまったのはここ数年のことでした。
勢い会社を退職したものの漫画では全く食べては行けず、打ち切りも経験し、「漫画を売る」ということがいかに厳しく難しいことであるかを体感する中で、「自分はダメだ」という思いが物凄く強まっていったのです。
もともと私は絵を描くのが大好きで、人生がず~っと難しい中で描くことだけが「自分が自由に振舞っても許される、逃避場所」だったんですよね。
それが「売れない」という事実によって叩きのめされて、唯一の逃げ場すら失ってしまったような気持ちで、「自分には価値がない」と「確信」してしまうような、沈んだ時期を過ごしてきました。
私にとって描くこはとても自然なことで、幼少期から描き続けてきて、デビューまでは比較的とんとん拍子であったがゆえに、私の中にあった「自分には才能がある」という浅はかな希望が、ここ数年で見事に崩れ去ってしまったのです。

それでも描くことがやめられなかったのは、私の中に「描かなければ生きていても意味がない」という感覚が幼い頃からず~~~っとあったので、生きていくために、描くことからどうしても逃げられなかったのです。(こういう強迫観念はよくないと思うんだけどね…ほんとは生きてるだけで花丸なんだけど、私にはまだ描くことと人生が不可分なんです…)
大人になるまで描くだけの生活を選べる境遇にはなかったけれど、学校でよい成績を取ることよりも、サラリーマンとして数字をあげることよりも、ずっと「良いものを描く」というのが私の中では重要で、それを求めて絵を描き続けてきました。

それなのに、恐怖で筆が止まってしまう。描いても描いても「こんなもの面白くない」という声がずっと頭の中で響いている。
そういう状態を抜け出して、真向から作品に向き合うためにも、一刻も早く心身を整えて、自信を持って作品と向き合いたいと、何年も願い続けていました。

ガリ勉気質なので、「メンタルヘルス」や「自信」に関する本も山のように読みました。
「自信を得るには、小さな達成感を積み重ねるのがいい」と見かけ、基本的な生活習慣を見直し、その中で出来たことを積み重ねていきました。(朝起きられた!とか、湯船に浸かれた!とかね…その集大成としてコミックエッセイ本まで出したよw)
このおかげで、心身の健康状態はかなり回復したものの、一度失われてしまった描くことへの自信は戻ってこないままです。
究極的には自信は「思い込み」なのではと感じる一方で、作品、そして作家として生きることに対して「私、本当に大丈夫なんだろうか」という思いを消せないまま机に向かい続けてきました。

そして今年の6月、念願かなってロンドンでの制作生活がスタートしました。
現地で制作するということは、海を隔てても仕事が継続でき、高いポンドに耐え続けるだけの多少の備えもあるということで…数年前の私にとっては夢のまた夢のような出来事でした。
それが実現できた時点で、「ここまで来たか…!(熱い涙)」と自分を誇らしく思えそうですが、私の卑屈と自らハードルを上げ続ける能力はそれをはるかに上回っていました笑。
ただロンドンにいるだけで浮かれあがってはならん!ワシはここに修行にきとるんじゃい!!…と歓喜を一瞬で捨てさり、ひたすら机に向かう日々が始まりました。

現地で制作を続けていると、自信がつくどころかどんどん不安が募っていきました。
漫画は一人で作っているのではなく、編集さんに物語の全体像や「ネーム」と言われる物語の構成を確認してもらいながら、二人三脚で制作しているのですが、その「ネーム」にスムーズにOKが出るようになっても不安で仕方がないのです。
勿論編集さんの評価を信用していないわけではないんですが、私の中に「もっとよくできるんじゃないの?」という疑問がず~っと消えずにあるのです。
本当にこのセリフでいいんだろうか?私はこのキャラクターの魅力を、一番良い形で描き切れているんだろうか?もっとカッコいい構図があるんじゃないの?そもそもこれ、読者も読んで「面白い!続きが読みたい!」って言ってくれるかな???
作画をしていても、こういった疑問が延々と頭を巡っていました。
ロンドンで制作していると言っても、実情は机に向かい続ける日々で、腕も腰も肩も痛いし、蓄えはみるみるなくなっていく。
地球の反対側までやってきて、こんな苦しい思いをして、私は作品に対して「正しい努力」が出来ているのだろうか?とずっと悩んでいました。
そして一歩外に出ると、ロンドンの街にはあらゆる美しいもの・面白いものが山のようにあるのに、その素晴らしさを紙の上に表現する力のない自分に、日々絶望していました。(私があまりに「美しすぎ…描けない…悔しい…」と嘆くので、友人はさすがに呆れていました笑)
いま目にしている素晴らしいものを、どうしたら漫画の中に落とし込めるのか?
行く先々で、「ここにキャラクターがいたらどうするかな」ということをず~っと考え続けた半年間でした。
この間に新連載の原稿は2話分仕上げ、3話も完成が見えてきていますが、「面白さ」に自信が持てないまま帰国を迎えました。

そんな感じで、確たる自信は得られないまま岐路についた私ですが、帰りの飛行機で隣の席だった、カナダ人のシェフから面白い話を聞きました。
彼は世界中の一流レストランで修業し、現在日本の某高級ホテルのエグゼクティブ・シェフをやっている方で、フライトが9時間くらいあったので(辛かったw)いろ~~んな話をしました。
「自分の作品に自信が持てないんだよね~」と語る私に対して彼曰く「日本の人は、概してそういう傾向あるよね」とのこと。
そのうえで彼は、「僕は自分の仕事に自信あるよ!自信があることもいい面ばかりじゃないけど、お客さんに何かを提供するからには、絶対に自信を持っていないといけない」と言っていました。いやね、ほんとそれ~!!!
誰も「こ、こ、こ、こ、これ、あんまり面白くないかもしれないんですけど、まじで暇な時間あったらちょっとだけ読んでね…ほんと微妙かもだけど、もしかすると万が一好きかもしれないし…(延々)」とか言われた漫画、読みたいと思わないもんな~~。
例え制作中に迷いはあっても、締め切りがあり、そこまでに仕上げられたものが自分のベストのハズなのです。
リリースの際には「これ超絶面白いから絶対読んでよね!見逃さないでッッ ッ!!!」って信じて、伝えた方がいいに決まっている。
頭では十分に理解しているはずなんだけど、出来ない。そういや私、生まれてこのかた何かに自信があったことなんてほぼないもんな…ハハ…
新連載の開始が迫る中、私は未だに「大丈夫かな…」を拭えず帰国していました。

そして昨日、新連載のお知らせが解禁となりました。
ギリギリの決定で全く心と告知の準備が出来ておらず、でも今回はただの「お知らせ」で作品はまだ一切世に出ていないんだから、全く緊張する必要ないじゃ~ん☆…と自分を宥め、エイヤ!の勢いでツイートを発しました。
緊張する必要はないといいつつ、目はツイートにクギヅケ、お腹は一瞬で「ギュルルゥゥ」と音を立てます。無理。怖すぎ。帰りたい!(家だけど)

けれども、ちゃんと読者の方が見てくださっていました。
やっと安心できました。本当にありがとう。(手をギュッ!)
寄せられるいいねやコメントを眺めているうちに「作品に自信がないなんて言ってちゃ、楽しみに待ってくれている皆さんに失礼だな」という実感が、しっかりとお腹の底に沸いてきました。
めちゃくちゃ陳腐な言い方ですが、既に「私は一人で制作しているのではない」ということが実感できたのです。
活動を楽しみに追ってくれている人たちに、「面白い!」と思ってもらえるものを描くぞ、と強く思えました。
絶対面白い漫画を描く自分を、信じたいです。
今後もきっとnoteの有料部分とかではメソメソするけど笑、作品は堂々と、自信を持って世に出していきます。

そんなわけで、イギリス好きのアナタ・関係性萌えのアナタ・そしてなにより自分のことがなかなか好きになれないアナタ、アナタに届けたくて描いています。
私の作品が、難しい現実を逃れて没頭できる、魅力的な場になると嬉しいです。
2022年12月19日(月)、ウェブにて連載開始します。
絶対面白いから、ぜひ読んでね!!!!!

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竹内絢香

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